語られる、女王と騎士と魔術師と。
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 賢き女王の治世は、まるで常世の夢のよう、と旅人は語った。
その国に生きる民の誰もが女王を愛し、彼女を称えた。
民の生活を安定させるために国の貯蔵庫を開放、医療所を国の融資でいくつも建て、教育施設を充実させ、街を栄えさせようと街道を整え、税を低く抑え、市場を広げた。また、身分に拘らず、才能を持つものに分け隔てなく仕官の道を開いた。
 そして、それらの偉業を5年で成し遂げた女王の姿を見たものは、誰もが驚き、吐息をこぼし、見蕩れた。
絹を思わせる長い艶やかな黒髪。真珠の白粉が塗られたように淡く輝く肌、陰を落とす長い睫毛に縁取られた瞳は、深い深い夜を切り取った永劫の闇。肢体は柔らかく麗しく、たった19歳の、若々しいものだった。

 そんな女王の両脇には、いつも必ず同じ姿があった。
右には、金と青の騎士が女王から贈られた名刀シャルフィリィと共に。
左には、銀と赤の魔術師が女王から贈られた特別誂えの祭司服を纏い。
まるで絵画の如く、美しく煌びやかにそこにあった。

 金と青の騎士は、王宮の騎士たちをまとめる総代であり、地方の自警団員までを管理する実質騎士たちの頂点に立つ。
鍛え抜かれた体躯や、大柄でありながらそれを苦としない身のこなし、さっぱりと整えられた髪は光を乱反射させてきらめく。腕は文句無しの超一流で、女王の隣に立って以来、一度の負けも経験したことがないという。
 銀と赤の魔術師は、国とは離れた存在である魔術師ギルドの幹部にあたる。次期ギルド長とも言われている彼は、なぜか今の位置にある。
細身でありながら、ひっそりと息づく力、すらりとした長身はまるで蝶が舞うように優雅に動き、肩より少し長い銀糸は、絡まることなくしなやかに流れる。魔術の腕前だけに限らず、雑学から専門分野まで、広く深くわたるその知識量を持つものは、世界に二人といない。

 女王の治世は、彼女の類稀なる才能や行動力と、彼らの知識や協力があってこそ成り立っている。
だからと言って、彼らの人格が聖人君子の如く出来た人間かどうかと言うと……定かではない。




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女王と騎士と魔術師と。